2026年、F1は新たなパワーユニット(PU)規定の初年度を迎えた。しかし、早くもパドックの視線はその先へと向かっている。2027年に向けた内燃機関(ICE)への比重移行が合意されただけでなく、FIAトップの口からはV8エンジン復活の可能性すら飛び出しているのだ。
バッテリー依存度が高まった現行のレギュレーションは、決して手放しで歓迎されているわけではない。マックス・フェルスタッペンや現世界王者のランド・ノリスといったトップドライバーたちが公然と不満を漏らしており、ファンの間でも冷めた空気が漂っている。こうした事態を受け、FIAは2027年に向けて電気とICEの「50対50」というバランスを見直し、よりエンジンパワーに重きを置く方針を打ち出した。さらにモハメド・ベン・スレイエム会長は、遅くとも2031年(目標は2030年)までに、最小限の電動アシストを備えたV8エンジンへの回帰が「確実にやってくる」と明言している。
この激動の最中、2026年から「キャデラックF1」としてグリッドに加わったゼネラルモーターズ(GM)の動向が実に興味深い。彼らは現在フェラーリのカスタマーチームという立場だが、水面下では自社製ハイブリッドPUの独自開発を着々と進めている。
では、新規参入組のGMはこの「V8回帰」の急展開をどう見ているのか。GMのマーク・ロイス社長はデトロイト・ニュース紙に対し、「個人的にはV8とそのサウンドを愛してやまない」と率直な思いを口にしつつ、「既存チームがV6ハイブリッドに投じた莫大な投資には、新参者として最大限の敬意を払う」と慎重な姿勢も見せた。とはいえ、仮にF1がV8へと本格的に舵を切るならば、GMはその波に乗る準備ができているというスタンスを隠していない。
華やかなモータースポーツの頂点を見据え、野心的なプロジェクトを推し進める一方で、GMの足元では極めてシビアな現実が進行している。巨額の投資を正当化し、次世代の戦いに備えるためには、身を切るようなコスト削減が避けられないからだ。
実際、同社は今週月曜からグローバル規模での大規模な人員削減に着手した。情報技術(IT)部門を中心に、テキサス州オースティンやミシガン州ウォーレンの拠点で働く500〜600名の従業員が対象となる。昨年末の時点で全世界に約6万8000人(うち米国内4万7000人)のホワイトカラーを抱えていたGMだが、ブルームバーグが報じたこのレイオフを事実と認め、「将来に向けてIT組織をより良いポジションに導くため、グローバルで特定の役割を廃止するという苦渋の決断を下した」と声明を出した。10月にも「ビジネス上の都合」として200名以上のCADエンジニアを解雇しており、容赦のないスリム化が続いている。
しかし、これを単なる業績悪化に伴うリストラと捉えるのは早計だ。数百人規模のクビを切るその裏で、同社の採用ページには人工知能(AI)、自動運転、そして「モータースポーツ」分野における82のIT専門職の求人が掲載されたままなのだ。
ここにGMの明確な青写真が透けて見える。過去の体制を切り捨ててリソースを捻出し、F1の自社製エンジン開発といった「勝たなければならない領域」へと資本と人材をピンポイントで投下する。冷徹なまでの選択と集中だ。V8エンジンの甲高い咆哮を再びサーキットに響かせるためには、オフィスから静かに人が去っていくのも、巨大企業が脱皮するための避けられない代償なのかもしれない。