眠り猫:平和の象徴としての存在

栃木県日光市にある世界遺産、日光東照宮には、多くの彫刻が存在しますが、その中でも特に参拝客に愛されているのが「眠り猫」と呼ばれる国宝の彫刻です。猫がなぜ眠っている状態で表現されているのか、その背後にある意味を探ってみましょう。

眠り猫の配置と意義

眠り猫は、徳川家康公の墓所へ続く奥社参道入り口に位置し、東回廊潜り門に設置されています。牡丹の花の下で安らかに眠る猫の姿が彫られており、その穏やかな様子が平和の象徴とされています。

他の神社にある猫の彫刻の多くは目を開いていますが、東照宮の猫は目を閉じており、これが他の猫彫刻との違いです。たとえば、仙台市の大崎八幡宮には「睨み猫」と呼ばれる目を見開いた猫の彫刻があり、これは富貴長寿の象徴とされています。

雀と共存する眠り猫

東照宮の眠り猫の裏には、竹林で遊ぶ二羽の雀が彫られています。昭和時代に東照宮でガイドをしていた高藤晴俊氏は、この「猫と雀」の組み合わせに平和のメッセージが込められていると考えました。通常、猫は雀のような小動物を捕まえてしまう存在ですが、眠り猫はその本能を抑え、周囲に安心感を与えているように見えます。これは、徳川家康公が戦国時代を終わらせ、平和な時代を築いたことへの象徴的な表現とも言えます。

かつては、眠り猫が「家康公の墓を守るために寝たふりをしている」と説明されていましたが、高藤氏は「平和のシンボルとして眠っている」とする解釈を唱えました。やがて、この解釈は多くのメディアに取り上げられ、平成24年には猫と雀が共存する様子が描かれた五百円硬貨も発行されるなど、高藤氏の解釈が広く受け入れられるようになりました。

蝶がいない理由

もう一つの疑問は、眠り猫の彫刻に蝶が登場しない点です。他の多くの建築彫刻には象徴的な意味が込められていますが、東照宮の眠り猫には蝶が描かれていません。この点について、高藤氏は「東照宮の彫刻はその知名度の高さゆえに、学術的な価値があると見なされることが少なかった」と語っています。

高藤氏は、東照宮に存在する5,173体もの彫刻を動植物や架空の生物などに分類し、さらに中国の歴史や他の神社仏閣にある彫刻との比較を通じて、これらの彫刻の学術的な意義を主張しています。

眠り猫は、静かに目を閉じることで、平和と共存のメッセージを伝える貴重な国宝として、多くの人々に愛され続けています。その姿は、争いを終わらせ、平穏な社会の到来を象徴する存在として、今後も人々に平和の大切さを伝え続けるでしょう

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